小児科医のお勉強ブログ

若手小児科医が勉強した記録です。

【Choosing Wisely®︎】米国小児科学会

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Choosing Wisely®︎という言葉を聞いたことがありますか?

 

Choosing Wisely®︎とは

慣習やルーチンで行われている不要な検査や治療をエビデンスに基づいて減らそうというキャンペーンで、2012年からこの活動は始まったようです。(Choosing Wisely®︎ホームページより)

各学会がおおよそ5個の提言を発表しており、無料で閲覧できます。

  

https://www.choosingwisely.org/

 

日本も含めて世界中でこの活動は支持されており、総合診療科などの領域では特に盛り上がっています。以前レジデントノート(羊土社)でも特集が組まれたことがありました。私は初期研修医の頃に総合診療科の指導医にChoosing Wisely®︎を教えてもらい、小児科医になった現在も時々調べています。

自分の診療を反省するような、ハッとした内容もあり勉強になると同時に、検査を我慢してくれたこども達に申し訳ない気持ちになります。低侵襲な診療が望まれる小児科領域には、とてもピッタリな考え方だと思います。

 

米国小児科学会〜のChoosing Wisely®︎

今回はAAP(米国小児科学会)のChoosing Wisely®︎を紹介します。

大きな学会だけあり、提言は10個です。

https://www.choosingwisely.org/wp-content/uploads/2015/02/AAP-Choosing-Wisely-List.pdf

 

①ウイルス性呼吸器感染症に抗菌薬を使用してはならない。

細菌性副鼻腔炎やA群溶連菌のクライテリアを満たさない、鼻閉、咳嗽、咽頭痛などの上気道炎に対しては抗菌薬を使うべきではない。それらの大多数はウイルス感染症である。

 

②小さい子の風邪に咳止めや解熱薬は推奨されない。

研究ではこれらの薬剤は利益はほとんどなく重篤な副作用が生じる可能性があると示されている。多くの咳止めと解熱薬は複数の成分を含んでおり、他の製品と組み合わされた場合に不慮の過量投与の機会を増やす。

 

③軽症の頭部外傷の評価にCT検査は必要ない;経過観察するか、画像検査の適応か決定するのにPECARN criteriaを用いるべきである。

軽症の頭部外傷は小児期と青年期にはよく起きる。頭部外傷で救急外来を訪れたおよそ50%の小児にCT検査が行われるが、その多くは不要である。こどもの脳は放射線感受性が高いため、不必要なX線の被曝は生涯のがん発症リスクを増加させる恐れがある。不要なCT検査はヘルスケアシステムへ不当なコストを課す。軽症の頭部外傷の小児に対して、CT検査を行うか決定する前に経過観察することは有効なアプローチである。

 

④単純型熱性けいれんの小児に神経画像評価(CT、MRI)は不要である。

頭部CT、脳MRIX線検査にはいくらかリスクがあるが、単純型熱性けいれんの診断と治療には役立たない。MRIは鎮静の必要性や高額なコストと関連し、頭部CTはわずかだが長期的ながんの発生リスクを増やす。

 

⑤CT検査は腹痛のルーチンの評価に必ずしも必要ではない。

救急外来では腹痛の小児の評価にCT検査はしばしば使用されるが、過剰である。CT検査には放射線が必要だが、放射線の必要性と長期にわたる潜在的ながんリスクの問題へは誤解があり、しばしば懸念がある。小児へは低線量なCT検査があるため、CT検査が不適切に行われ、それによる潜在的な不要な被曝もある。正しい検査(経過観察や超音波検査などの放射線に頼らない他の検査)が行われた場合に限り、また低線量CTなどの正しい方法で行われた場合には、状況によってはCT検査は小児の腹痛に対して非常に有効である。

 

⑥早産時に対してBPD予防や治療に高用量デキサメタゾン(0.5mg/kg/day)を処方してはならない。

高用量デキサメタゾン(0.5mg/kg/day)は低用量を上回る治療効果を示さず、推奨されない。高用量は神経発達障害を含む短期的、長期的な副作用と関連している。

 

⑦明らかな病歴のない患者に食物アレルギーのスリーニングパネル検査を行わない。

明らかな病歴なしに様々な種類の食物アレルギー検査(IgE検査)をオーダーすることは推奨されない。陽性であっても臨床的なアレルギーでないことが一般的である。例えば人口の約8%はピーナッツの検査が陽性だが、本当にアレルギーであり摂取して症状が出るのは1%のみである。症状からアレルギーが疑われる場合に注意深い病歴聴取に基づいて検査は選択されるべきである。

 

⑧苦痛や成長障害のないGERへ制酸薬や蠕動亢進薬(メトクロプラミド)の使用は避ける。“happy-spitter.”への処方は行わない。

逆流は一般的な合併症だが、多くの症状の原因がGERであるというエビデンスは乏しい。生理的なGERに対して制酸薬や蠕動亢進薬(メトクロプラミド)は無効であるというエビデンスが蓄積されている。乳児のGERの後遺症はまれで、制酸薬が後遺症を減らすエビデンスはほとんどない。GERやGERDの診断にルーチンの上部消化管造影は適さない。GERは乳児には通常のことで服を汚す以外に合併症はないことを両親は知らされるべきである。成長障害や呼吸器症状を伴う場合のみ精査されるべきである。

 

⑨無症候性細菌尿のスクリーニングと治療に監視培養を使用することを避ける。

尿の監視培養と無症候性細菌尿の治療が有益なエビデンスはない。監視培養はコストがかかり、偽陽性偽陰性を生む。無症候性細菌尿の治療は無駄であり抗菌薬への曝露を増やし、耐性菌の感染リスクとなる。結果としてコミュニティ内の抗菌薬使用につながり、不要な画像検査につながる。

 

⑩乳児の家庭用無呼吸モニターは乳幼児突然死症候群SIDS)の予防にルーチンで使用されるべきではない。

乳児の家庭用無呼吸モニターの使用がSIDSを減らすというエビデンスはないため、ルーチンで使用されるべきではない。しかし退院後で無呼吸や心血管イベントのリスクがある乳児への使用は有用な可能性がある。